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【夏日彼方 官方外传小说vol.02】ファインダー(取景器) 中文翻译(附原文)

2023-07-01 19:37:10哔哩哔哩

取景器

作者:Kazuhide Oka


【资料图】

翻译:Hectopascal

《取景器》是是文字冒险游戏《夏日彼方》的前传(前日谈)。

故事就发生在,一切都开始前,志乃[1]离开故乡后第一个五月的假期。

“为什么定在这儿呢?”

冰块在玻璃杯中撞出叮当的声响。

里见坐到对面的沙发上,手里拿着一杯加了很多鲜奶油的星冰乐,小心翼翼放到了桌子上。杯子是一次性塑料杯,所以没法发出玻璃杯那种声音。

被问及“为什么”的时候,自己之前也想过,究竟是为什么呢。

说是“想过”其实也并不太对,而是一直在想着。脑海中的某个角落一直在思考着。但要是问我是否在思考着,又明显感觉不太是。只是在脑海一隅飘荡着罢了,就像雨前的一片云一样。

到底是为什么会来到这座城市呢。

“那边的露天座位看起来还挺舒服的。天气也很好哦?”

里见一边拿手机拍照一边说着。她转了下杯子,想让logo朝前。

“是在说座位吗?”

店里确实有露天座位,春日的阳光也很明媚。玻璃窗的另一面耀眼夺目,与之相比,灯光昏暗的店里就显得有些阴暗。

“可是……肯定会晒黑的吧。”

外面的光线很强,志乃马上把目光转回桌子上。

“诶。就是因为志乃你太在意这些,皮肤才这么白的啊。”

“嗯……就是这样吧。”

就是随口一说而已。五月才刚开始,这种时候还没必要做防晒措施。不对,这个城市的孩子们——班里的同学们难不成都在做了?回想起来,今天来这里的路上好像见到过打着太阳伞的人。下回再悄悄问问大家吧,志乃想道。

“真好啊,小志乃。人家也想早点搬家啊。”

五月初——对,五月才刚开始。志乃离开家乡刚一个月多一点。在这座城市的第一个五月的假期里,里见远道而来看望她。里见是中学时的后辈,但比起后辈她更像是个妹妹。学校很小,只有几个住在城里的学生,当然,大家打出生就认识了。里见从小到大一直很麻烦。“后辈”这个词,是志乃来这座城市才开始用的。虽然确实是中学里的后辈,但要是用这种称呼就显得有些见外了。

不过,“朋友”这个词也有点不太一样,志乃想。

“能说服父母吗?”

要是问自己和里见是不是朋友,倒也算是,但心里并没有那种感觉。对志乃来说,里见果然还是更像需要照顾的麻烦妹妹,跟这儿的高中里认识的第一个同学是不一样的。

“怎么说呢。还是老样子吧,虽然没有明令禁止,但他们还是会一脸嫌弃的样子。要是讨厌的话明明可以直说的嘛。”

“是不想说出来吧。毕竟是父母。”

“真麻烦啊——”

里见一脸震惊,但志乃能理解她的心情。已经初二的里见,希望以后——要是可以的话,考上高中的时候能离开山里的村子,去繁华的地方。志乃以前也是这么想的,今年春天,她的梦想终于实现了。她考进了一个有宿舍的高中,在这座城市里生活着,在她憧憬已久的大城市里生活着,在很多同学、时尚的店铺、各式各样的活动还有五光十色的其他方面中生活着。

“……没什么,都这么大了,就用不上模仿我了吧。”

“怎么又这么说呀。才不是在模仿志乃呢,人家就是想这么干罢了!”

“可是,里见以前一直在模仿我啊——”

“真是的!志乃比我父母还死心眼!”

里见咬住吸管使劲吸着。要是在镇里的小餐馆里这么大声,肯定会被店里的大叔笑话吧。然而这是在城里的咖啡馆,谁也不会在乎,也没有异样的眼光。

“……那到底是为什么”

志乃装出一副要喝冰咖啡的架势说道。

“为什么想离开镇子?”

为什么呢,她想。究竟是为什么呢?

志乃抬了抬桌子上的视线,看着里见的脸,她正夸张地歪着头。明明是从小就一直在模仿她的里见,此时却全然不像她了。里见很率真,是个好懂的孩子。

“这种事,志乃你应该最懂了吧。”

她一脸奇怪地回答了志乃的质问。

“一直待在那种小镇里的话,不到二十岁就得变成老奶奶了,心理上。”

几年前的自己,一定是跟里见说过类似的话吧。但是,现如今的里见想来却对不上从前的自己。这是为什么呢,她想。说的话、做的事应该和曾经的自己如出一辙。然而,事实并非如此。

不——不是并非如此。大概只是记不清那时的自己了。

“啊,要是这么说的话。”

里见拿起扔在桌子上的手机。

“说到老奶奶,突然想起来,安达的奶奶家的猫前几天生了只小猫。快看快看,可爱吧?”

“啊,我看到过。里见之前不是发我照片了嘛。这个画面就是你发的消息啊。”

“啊,还真是。发出去了吗?”

“真担心你啊。里见,你离开镇子以后能自己一人生活吗?”

“能啊……应该能吧。”

里见点开手机相册,给志乃看了没发给她的那些照片和视频。刚出生的小猫一点也没有猫的样子。

“但是,虽然说是一个人,不是还有宿管阿姨吗?宿舍里的人也都是高中里的,也不能叫一个人吧。”

“我嘛,是这么说没错。”

“哈,真希望我能聊聊宿舍的事什么的!”

“真烦呐……”

白底黑斑的母猫正舔舐着刚出生的小猫。眼睛暂时还看不见的小猫,看起来就像别的物种。说实话,我觉得它并不可爱。但是里见一直说可爱可爱,还给我看了很多照片。她在现场看的,拍了这张照片。可能差异就在这吧,志乃心想。

照片里的猫躺在一个铺着布的纸箱子里。她对纸箱没有印象,但是知道这个房间。她以前常和里见一起去照顾安达家的猫。褪色的榻榻米、磨砂玻璃推拉门,真怀念啊。

尽管心感怀念——但那时的自己已经回想不起来了。

热闹得不能再热闹的咖啡馆里,一边咂摸着冰咖啡的后味一边看着手机的自己,与那时的——摸着照片里那只猫的自己,并没有什么直接关系。虽然能记起这个场景,自己的心情和感受却一去不复返。志乃动不动就感觉像是毫无关系的陌生人一样。要是里见拍这张照片的时候,自己也在场的话又会作何感想呢——无论如何也想象不出来。

“……诶?”

照片看完一会儿后,里见不满意地嘟起了嘴。啊,想起来了,她这种动作我很熟悉。回想起在那个镇上的时候,没什么地方可去,放学了也只能在别无他人的教室里说说话。但是,自己却并不在那个画面中。因为在自己的回忆这是理所当然的,然而在视野的前方也感受不到自己的存在。

“那,志乃,你为什么要搬到这个城市来?”

“为什么,那当然是因为……”

因为什么呢。

明明在思考着,思考的过程中问题却变回了,为什么要离开故乡——为什么如今却总想着故乡呢?

“后悔了吗?”

“……没有。才没有后悔什么的。”

并没有说谎。

“我是跟父母说了些过分的话之后出来的,也有点对不起那些还小的孩子。但这是我自己的人生。照顾孩子们还是应该让里见他们来。”

“算是吧。志乃不在了之后,我好像更有所谓的责任感了,虽然只有一点。”

“里见也变成姐姐了啊。”

“是啊,变成一个了不起的姐姐了。”

里见挺起胸膛,逗得志乃不由得笑了。不过,事实确实如此。里见也已经不是小时候的里见了。要是离开镇子一个人生活,也肯定能过得很好。志乃嘴上虽然那么说,其实并不是很担心她。尽管如此,每当她说要离开镇子的时候,志乃就感到痛苦,想阻止她。

“为什么,为什么呢。”

为什么——她看着坦诚真率地讲述着镇子外生活的里见,胸中会如此苦闷呢。

就在这时,热闹的店里进来了几个更热闹的人。

其中一个顾客抬头看了看吧台前的菜单,接着发现了店里的志乃。

“啊,这不是志乃嘛。”

“诶,啊,缲实!大家都在啊!”

是高中的同学们。她们好像是刚买完东西回来,每个人手里都提着印着不同店的logo的袋子,有些是眼熟的,也有没见过的。她们见到志乃大声打着招呼,向她招手。

志乃不由得站了起来,像是要挡住坐在对面的里见。

其中一个人跑到她座位前,把上午集合后发生的事大概说了一遍。已经到下午三点多了。

“我们等会还要去逛,志乃也来吧——对了,你说今天有事来着,什么呀,约会吗?”

她看到了坐在座位上的里见。平时很吵闹的里见,现在简直就像是借别人家的小猫一样缩成一团。

“不是这样的。这孩子,额,是我初中时候的后辈!”

“诶,志乃的初中还挺远的吧。那她今天是过来玩的吗?”

“嗯,对。”

“那就不打扰你们啦。志乃和后辈,拜拜!”

志乃挥手目送她回到大家那边。

同学们之后也就没再看向志乃,边聊边点了餐,消失在里面的包厢里。热闹的声音渐渐远去,里见这才舒了口气。

“……学校的人?”

“对哦,都是同学。”

志乃生硬地答道。她也只能这么答了。

志乃不得已有意识地改变自己。跟这座城市的同学聊天时的自己,和在故乡时的自己,在她心中,这两码事没法顺畅联系起来。跟同学说话的自己被里见看到了让她感觉很羞耻。

然而,里见深深叹了一口气,感到很佩服。

“志乃真了不起啊。”

她抬头望向天花板,风扇静静地转着。

“我能像那样融入大都市的人里吗?感觉有点犯怵。”

“肯定能的,没问题。”

“说不好呀。”

肯定能行,志乃想。一开始确实会有些不知所措,但迎合她们就不难,也不会痛苦。只要进到里面来,大概谁都可以融入。志乃现在却在反向思考着。她想把自己转变成和里见说话时的自己,但无论她怎么努力却又都不顺利。跟她说话还是可以的。从里见的样子看来,她应该没觉得今天的我自己很奇怪吧,也没准是自己太过在意了,她想。但是,志乃心里还是有违和感。更重要的是,为什么会这么在意这种违和感呢。

因为和同学们的意外相遇,二人不知为何在店里待不下去了,没过多久站起身来。志乃独自看向喋喋不休的同学们,没有对上任何人的目光。

走出这家店,并没有什么别的可去的地方。里见虽然想买东西,但也没有具体的东西或者店。志乃来这座城市才一个月,还没到能带人逛这个以车站为中心的繁华街道的程度。她们姑且决定先去附近的商场里看看。

沿着这条路,她们经过了电器店。

志乃瞥了一眼橱窗展示的东西,停下了脚步。

是一款相机,还是专业的单反,旁边摆着几组镜头。

“志乃对这种感兴趣吗?”

里见转过头说道。

“不是……并没有。”

志乃往店里看了看,好像是有专门的一层用来并排摆放着相机。当时的志乃并不知道这些相机间有什么区别,感觉都差不多的样子。

“但是,最近我还想买台相机来着,庆祝高中入学,也没什么别的用处,还要开始打工了。”

“哈——”

“不是这么贵的也行。”

走到旁边的货架上,志乃发现了一款比她先前看到的小巧紧凑得多的,价格也便宜不少的,好像是叫微单相机。但志乃也并不知道有什么区别,拿起其中一台看了看。这台不是展示用的模型,有点分量,按下按钮就开机了,屏幕上有了画面。

“照相机啊。要拍什么样的照片?”

“要说什么样的——”

“志乃这么可爱,要当模特吗?”

“那不就不需要相机了嘛。”

“那要拍什么呢?”

“这个嘛……”

说到这里,志乃又思考起“为什么”了。

为什么是照相机呢。迄今为止都没什么兴趣的东西。只是拍照的话,手机不就够用了吗。拍一拍午饭的照片、跟朋友的纪念照这种,都可以用手机。既然这样,这台相机是为了什么呢?终于来到了大城市,接触到很多新鲜事物,想要的东西也变多了。虽然什么都能从网上买到,但还是想直白地看到摆在店里的东西。然而相机跟那些相比却感觉不一样。不久前在哪看到了一台相机,心头下意识一震。那时的志乃就像是发现了自己很久以前就存在于自己内心中的感情。

恋爱莫非就是这种感觉吗——她这么想道,但很快又自觉蠢得可笑,于是停下了这种想法。她看了看手头的相机的画面,相机不知为何一直架着,映着店里的画面。

看着这幅画面,志乃心头浮现出一种奇妙的感觉。

就像是记忆被私自挖出来的感觉。她看着屏幕上的画面,想起了第一次见到那幅景色的时候——就在刚刚窥视店里的时候,带着些许的期待和窥探未知世界的不安,还带着“为什么”这个谜。这种心情,感觉,一下子又回到了自己体内,下意识按下了快门。拍摄的静止的一瞬出现在屏幕上,又消失了。她不知道怎么查看保存下来的照片,但她想,现在的一瞬还存留在里面,只要能看到,那种感觉一定会再浮现出来吧。

“——景色,吧。”

随口而出的话变成了对里见的答复。

“你是说这座城市的景色吗?也是,总算来到了心心念念的大都会。”

“不……不是。不是这儿。”

“不然呢?”

“怎么说呢……想拍点更自然的景色什么的吧。”

说着说着,连自己都惊呆了。好像是明白这种心情究竟为何了。一边说着,话语随着她的动作表达着她的心情。

她大抵是不想失去吧。

她害怕失去本应存在的自己。就像已经记不清儿时的自己思考了些什么,在这座城市生活时,那个属于故乡的自己会消失,这让她怖惧万分。然而,要是说对那个小镇是否心存留恋,倒也没有。这与是否重视过去的事并没有太多关系,只是单纯惧怕着失去而已。只是不愿失去曾经拥有的东西和本应拥有的东西罢了。

还不知道是不是重要的东西呢。但就是因为这样,才不想失去。

这种心情终于在志乃心中化作言语,觉得能解释清楚,便开口了。

但在此之前,里见和她说:

“那就是,想家了吧?”

很坦率、很直白的一问。

志乃不由得笑了起来,如她所说,接受了这种说法。自己这么拖泥带水究竟是又想了些什么呢。对,想家,仅此而已,没什么了不起的。后悔啊、不想失去啊、过去的自己什么的,用那些话来说也太蠢了。想家是任何人都能理解的、理所当然的感情。一想到这里,志乃大笑不止,手里的相机也差点掉到地上,即便如此也忍不住地笑着,给里见吓了一跳。她笑到眼眶泛着泪花。

志乃悲喜交集,边哭边笑,做出了决定。

什么时候买一台相机吧。

然后带着相机回到小镇。

那样的话就肯定能记住了,那个在镇上生活的自己、那时候的自己的心情,然后拍下来,不光要拍那个小镇,还要拍下在那个小镇的自己,永志不忘。

无论是故乡还是这座城市,今后要去的各种地方,都拍照留下纪念吧。无论城市、世界还是自己终有一变。就连现在这个对大都市无比憧憬的自己也总有一天会消逝。即使到了那时,我也不希望忘记当时的自己。过去的自己、现在的自己、未来的自己,或许并不能顺畅相连,但我还是想记得曾经存在过这样的自己。

志乃笑了一会,发现额头上出了汗。

抬头一看,阳光正从蓝天的深处倾注而下。这是她在这座城市度过的第一个季节。在这座城市里,一切都是第一次的,新鲜的经历。

夏天马上就要到了吧,她想。

注:

[1] 原文中志乃的名字写作「志野」,同样读作「シノ」,译文采用Steam商城页面官方译名,后同。

ファインダー

written by Kazuhide Oka

「ファインダー」は、テキストアドベンチャーゲーム「ナツノカナタ」の前日譚です。

まだすべてが始まる前、シノが故郷の町を出て、初めての5月の連休のこと――

「どうして、ここにしたの?」

グラスの中で、氷が固い音を立てた。

里見が目の前のソファに座った。彼女の手の中にあるのは生クリームがたっぷりのったフラペチーノで、テーブルの上に静かに置かれた。グラスではなく使い捨てのプラカップだったから、音の立てようもなかった。

どうして、と訊かれて、どうしてだろう、と思った。

思った、というのは少し違う。ずっと思っている。頭の片隅でいつも考えている。でも考えているのかといわれると、それもやっぱり違うような気がする。頭の片隅にずっとある。雨の前の雲みたいに漂っている。

どうして、この街に来たのだろう。

「あっちのテラス席、気持ちよさそうなのに。天気、いいよ?」

里見がスマホで写真を撮りながら言った。ロゴが手前に来るよう、カップを回す。

「……席の話?」

確かに店にはテラス席があって、春の日差しで充ち満ちていた。ガラスの向こうは眩しいくらいで、それに比べると、明かりの控えめな店内は日陰のように見える。

「だって……日焼けしちゃうじゃん」

外の光が強すぎて、すぐにテーブルに目を戻した。

「へぁー。そういうのちゃんと気にしてるから、志野ちゃんはそんな色白なんだなー」

「まーね」

出任せだった。まだ五月も始まったばかり、こんな時期から日焼け対策なんてしない。いや、この街の子は――クラスのみんなは、もしかしてしているんだろうか。思い返せば、今日ここに来るまでの間に日傘を差した人を見たような気もする。今度、それとなくみんなに訊いてみよう、と志野は思った。

「いいなー、志野ちゃん。うちも早く引っ越したーい」

五月の始め――そう、まだ五月が始まったばかりだった。志野が生まれ故郷の町を出て、まだ一ヶ月と少し。この街で過ごす最初の五月の連休に、里見が志野を訪ねて遙々やって来たのだった。里見は中学の後輩で、後輩というより妹みたいだった。生徒がほんの数人の小さな中学校、それが町に住む中学生のみんなで、もちろん生まれた頃からみんな知り合いだった。里見の面倒は幼い頃から見てきた。「後輩」なんて言葉は、この街に来て初めて使った。確かに里見は中学の後輩だけれど、後輩なんていうとちょっと他人行儀に感じる。

でも「友達」という言葉も少し違うんだな、と志野は思う。

「親は説得できそ?」

自分と里見が友達なのかといわれればそうなのだけれど、でも、そんな感じはしない。志野にとって里見は、やっぱり面倒を見るべき妹のような存在であり、この街の高校で初めてできたクラスメイトとは違う。

「どーかなー。相変わらず、止められはしないけど、嫌な顔されるって感じ。嫌なら嫌って言えばいーのに」

「言いたくないんでしょ。親だから」

「めんどくさいなー」

呆れた顔をしながら、でも志野には里見の気持ちがわかる。中学二年になった里見は、将来――できれば高校入学と同時に、あの山の中の田舎町を出て、賑やかなところに行きたいと思っている。かつて志野も同じように思い、この春、やっと望みを叶えた。寮のある高校に入学し、この街で暮らしている。憧れていた、大きな街での暮らし。たくさんの同級生と、流行りの店、イベント、その他いろいろ。

「……別に、こんな歳になってまで、あたしの真似しなくてもいいのに」

「まーた、そういうこと言うー。志野ちゃんの真似してるんじゃないもん。うちが、やりたいだけ!」

「だって里見、昔っからずっとあたしの真似ばっかして――」

「もー! 志野ちゃん、親よりしつこい!」

里見がストローに食らいついて思い切り吸う。ここが町の食堂だったら、こんな大声、きっと店のおじちゃんに笑われていただろう。でもここは街のカフェ。誰も気にしない。視線の一つも感じない。

「……じゃあ、なんで」

志野はアイスコーヒーに口をつける振りをして、言う。

「なんで、町を出たいの?」

どうしてだろう、と思う。どうしてなんだろう?

テーブルに落とした視線を少し上げて、里見の顔を見れば、彼女は大げさなくらい首を傾げていた。小さな頃から自分の真似ばかりしていた彼女だけど、こういうところは全然似ていない。里見はとても素直で、わかりやすい。

「そんなの、志野ちゃんが一番知ってるじゃん」

変な顔をしながら、彼女はあくまで質問に答える。

「あんな町にずっといたら、二十歳になる前におばあちゃんになっちゃうよ。心が」

数年前の自分は、きっと似たようなことを里見に言っただろう。でも今の里見のことを、昔の自分のようには思えない。どうしてだろう、と思う。言っていることは、やっていることは、昔の自分自身とそっくりだった。なのに、違う。

いや――違うんじゃない。たぶん、思い出せないんだ。その頃の、自分のこと。

「あ、そいえばね」

里見がテーブルの上に投げ出されていたスマホを取る。

「おばあちゃんで思い出したけど、安達のおばあちゃん家の猫、この前子猫産んだんだー。ね、見て見て。かわいくない?」

「あー。見たよ。里見、あたしに写真送ってくれたじゃん。……ってゆーか、その画面、あたしに送ったメッセじゃん」

「あ、ほんとだ。送ったっけ?」

「不安だなー。里見、町出て一人で生活できる?」

「できるよー。……たぶん」

スマホの中に収められた写真の一覧を出して、志野には送っていない写真や動画を見せてくれる。生まれたばかりの子猫は、まだ全然、猫っぽくない。

「でも、だって、一人って言っても、寮母さんとかいるんでしょ? 寮の人も高校の人だし、一人じゃないんでしょ?」

「うちは、まぁ、そうだけど」

「へぁー。寮のこと、うち、とか言ってみたーい!」

「……うるさ」

白に黒い斑点の親猫が、生まれたばかりの子猫を舐めている。まだ目も見えない子猫は、別の生き物みたいで、正直、かわいいとは思えない。でも里見はかわいいかわいいと言っていろんな写真を見せてくれる。この写真を撮ったのは彼女で、生で見ている。その違いのせいだろうか、と志野は思う。

写真の猫は布を敷き詰められた段ボール箱の中に横たわっている。段ボール箱に見覚えはないけれど、その部屋のことは知っている。よく里見と安達さん家の猫をかわいがりに行っていた。褪せた畳も、磨りガラスの引き戸も、懐かしい。

懐かしいと思う――でも、その頃の自分のことを、うまく思い出せない。

賑やかすぎるくらい賑やかなカフェで、アイスコーヒーの後味を感じながらスマホをいじっているこの自分と、その頃の自分が――写真に写った猫を撫でていた頃の自分が、真っ直ぐに繋がらない。情景を思い出すことはできても、自分の気持ちが、感じが、戻ってこない。ともすれば、赤の他人のように思える。もし里見がこの写真を撮った、その場に自分もいたらどんなことを思っただろう――想像しようとしても、どうしても、うまくいかない。

「……えー?」

ひとしきり写真を見せ終わると、里見は気に食わない様子で口を尖らせた。ああ、と思う。彼女のそういう仕草はよく知っている。あの町にいた頃、行くところもなくて、放課後誰もいない教室で話していたのを思い出す。でも、その景色の中に自分はいない。自分の記憶なのだから当たり前だけれど、でも、その視界の手前に自分を感じることができない。

「じゃあ、志野ちゃんは、なんでこの街に引っ越したわけ?」

「どうしてって、そりゃ……」

どうしてだろう。

考えて、なのに、考えている間に問いかけがひっくり返る。どうして故郷の町を出たのか――どうして、今、こんなにも故郷のことばかり考えてしまうのか。

「後悔とか、ある?」

「……ないよ。後悔とか、そういうのは、ない」

嘘ではなかった。でも、ならなんだというのだろう、と思う。

「親に無理言って出てきたのとか、まだ小さい子たちの面倒みてやれなくなったのは、申し訳ないってちょっと思ってるけど。でもあたしの人生だし。子供の面倒は、里見たちが見てくれるだろうし」

「まーねー。志野ちゃんがいなくなって、責任感っていうか、そういうの感じるようになったかも。ちょっとだけ、ね」

「里見もお姉さんになったなぁ」

「そーだよー。立派なお姉さんになりました」

里見が胸を張るので、志野は思わず笑ってしまった。でも、そのとおりだった。里見ももう幼かった頃の彼女ではない。もし町を出て一人暮らしをすることになっても、きっとうまくやるだろう。志野だって、言葉ではああ言ったけれど、本当はそんな心配をしているのではない。なのに、彼女が町を出たいと言う度に、何か苦しくなる。止めたくなる。

「なんで、なんだろ……」

どうして――町の外での暮らしを素直に、真っ直ぐに語れる彼女を見ていると、こんなにも胸が苦しくなるのだろう。

そのとき、賑やかな店に、もっと賑やかな何人かが入ってきた。

カウンターの前のメニューを見上げていたその客の一人が、店の中に志野を見つけた。 

「あ、志野ちゃんじゃーん」

「え――あ、繰実ちゃん! ……ってか、みんないるじゃん!」

高校のクラスメイトたちだった。買い物に行った帰りのようで、各々がいろんな店のロゴの入った袋を下げていた。見覚えのあるロゴもあれば、そうでないのもあった。彼女たちは志野を見つけては声をかけたり、手を振ったりしてくれた。

志野は思わず立ち上がった。向かいに座っている里見を隠すみたいに。

一人が席まで駆け寄ってきて、昼前に集合してからの出来事をかいつまんで話してくれた。もう午後三時を回っている。

「これからまた行くんだけどさ、志野ちゃんも――ってか、そっか。志野ちゃん、今日は用事あるって言ってたんだった。何? デート?」

彼女が席に座ったままの里見を見た。普段は賑やかな里見も、さすがに借りてきた猫みたいに縮こまっていた。

「そーゆーのじゃないよ。この子は、えっと……中学の頃の後輩!」

「へー。志野ちゃんの中学って、結構遠いとこだよね。じゃあ、今日は遊びに来てるんだ」

「うん、そんなとこ」

「じゃあ、お邪魔しちゃだめだよねー。じゃあね、志野ちゃん! 後輩ちゃんも!」

みんなのところに戻っていく彼女を志野は手を振って見送った。

それからクラスメイトたちはもう志野の方に目をやることもなく、お喋りを続けながら注文を済ませて奥のボックス席に消えていった。賑やかな声が遠ざかって、里見はやっと息をついた。

「……学校の人?」

「そーだよ。みんな、クラスメイト」

ぶっきらぼうに答えた。そういう返事しかできなかった。

志野は意識して、自分を切り替えなければならなかった。この街のクラスメイトと喋っているときの自分と、故郷の町で過ごしていた頃の自分。彼女の中で、その二つがなめらかに繋がらない。クラスメイトたちと話している自分を里見に見られるのは気恥ずかしかった。

でも、里見の方は大きく息を吐いて、感心していた。

「志野ちゃんはすごいなー」

彼女は天井を見上げる。シーリングファンが静かに回っている。

「うち、あんな風に都会の人たちに溶け込めるかなー。ちょっと不安になってきたかも」

「……できるよ。大丈夫」

「そーかなー」

きっとできる、と志野は思う。確かに最初は少し戸惑ったけれど、彼女たちのノリに合わせるのは大変ではなかった。苦でもない。あの中に入ってしまえば、たぶん誰だってああなれる。志野は、それとは逆のことを考えている。里見と話をするときの自分に気持ちを切り替えようとしているけれど、どうしても、うまくいかない。彼女と話をすることはできる。里見の様子からしても、今日の自分がおかしい、ということはないだろう。自分が気にしすぎかもしれない、とも思う。でもやっぱり志野の中に違和感は残った。もっというと、どうしてこの違和感がそんなにも気になってしまうのか、ということの方が重要だった。

クラスメイトたちとの急な遭遇もあり、なんとなく店に居づらくなって、二人はそれからしばらくもしないうちに席を立った。志野は一人、クラスメイトたちがお喋りを続けている方を見やったけれど、誰とも目は合わなかった。

店を出て、かといって行く先は別段なかった。里見は買い物をご所望だったけれど、具体的に目的の物や店があるわけではない。志野だって、この街に来てからまだ一ヶ月。駅を中心に広がる繁華街を案内できるほどではない。二人は、とりあえず近場のモールに入ってみることにした。

その道すがら、電器屋の前を通った。

店頭にディスプレイされているそれが横目に見えて、志野は立ち止まった。

カメラだった。プロ仕様の一眼レフ。隣に付属のレンズが何本か並べられていた。

「志野ちゃん、そういうの興味あったっけ?」

里見が振り向いて言った。

「や……なかったけど」

志野は店の中を覗いてみる。専門のフロアのようで、カメラがずらっと並んでいる。このときの志野にはそれぞれの違いなんてわからなくて、全部同じに思えた。

「でも、最近、カメラとか買おっかなーって思ってて。高校の入学祝い、何にも使ってなかったし。バイトも始めるし」

「へぁー」

「こんな高いのじゃなくていいけど……」

隣の棚に行けば、最初に目に入ったのよりずっとコンパクトで、手の出しやすい価格帯になった。ミラーレスというらしい。それだって、いったいどんな違いがあるのか志野にはわからない。その中の一つを手に取ってみた。展示用のモックアップではなくて、それなりの重みがあった。ボタンを押せば電源が入り、モニタに景色が写る。

「カメラかぁ。どんなの撮るの?」

「どんなのって」

「志野ちゃんかわいいし、モデルさんになる?」

「それ、あたしカメラいらないじゃん」

「じゃあ、何撮るの?」

「さぁ……」

ここでまた彼女は、どうして、と思う。

どうしてカメラなのだろう。今まで興味なんてなかった。写真を撮るだけなら、スマホで十分だと思う。ランチの写真を撮ったり、友達と記念撮影したり、そんなのは全部スマホでいい。なら、このカメラはなんのためなのだろう。大きな街にやってきて、新しいものといっぱい出会って、ほしいものが増えた。なんでもネットで買えるけれど、やっぱり店頭に並んでいるのを直に見るとほしくなる。でも、カメラは、それとは違う気がする。少し前に何かでカメラを見かけて、はっとした。ずっと前から自分の中にあった気持ちに、そのときやっと気づいたみたいだった。

恋をするときって、もしかして、こんな感じなんだろうか――そんな風に思って、でもすぐに馬鹿馬鹿しくなって、考えるのをやめた。手元のカメラが映す映像を見た。カメラはなんとなく構えられたまま、店の中を映していた。

それを見て、奇妙な気持ちになった。

記憶が勝手に掘り起こされる感じだった。モニタに写った景色を見て、自分が初めてその景色を見たときのことを――ついさっき店を覗き込んだときのことを思い出した。ほんのりした期待と、よく知らない世界を覗き込む不安。それから、どうして、という謎。そういう気持ちが、感じが、ふっと自分の中に戻ってきた。思わずシャッターを切っていた。撮影された静止画が一瞬画面に出て、消える。保存された写真を見る方法はわからなかった。でも、今の一瞬がこの中に残っているのだと思った。それを見れば、きっと、何度でもあの感じが戻ってくるのだと思った。

「――景色、かな」

口を突いて出た言葉が、里見への返事になった。

「この街の景色ってこと? まぁ、やっと念願の都会に来れたんだもんね」

「や……そうじゃなくて。ここじゃなくて」

「なくて?」

「もっと、なんていうか……自然の景色とか、撮りたい、かな」

話ながら、そうなんだ、と自分で驚いた。この気持ちがなんなのかわかった気がする。話ながら、言葉で、自分の気持ちが説明される感じだった。

失いたくないんだと思った。

あったはずの自分が失われていくのが、怖いんだと思った。子供の頃何を考えていたのかわからなくなるように、この街で暮らしているうちに、故郷にいた頃の自分が消えてしまうような気がして、それが怖かった。でも、あの町での暮らしに未練があるのかといわれると、そうではない。昔のことを大事に思っているかどうかはあまり関係がなくて、ただ失うことに恐怖を感じているのだった。もっていたものを、あったはずのものを失うことが、嫌なだけだった。

大事なものなのかどうかは、まだわからない。でも、だから、失いたくない。

そんな気持ちが、やっと志野の中で言葉になった。それを説明できると思って、彼女は口を開いた。

けれどその前に、里見が言った。

「それって、ホームシックってこと?」

あんまりにも素直で、真っ直ぐだった。

志野は思わず笑ってしまった。そのとおりだ、と納得した。なんてまどろっこしく考えていたんだろう。そう、ホームシック。それだけだった。なんのことはない。後悔とか、失いたくないとか、過去の自分とか、そんな風に説明するのも馬鹿らしい。きっと誰だって感じる、当たり前の気持ちだった。そう思うと、笑いが止まらなかった。声を上げて、手の中のカメラを落としてしまいそうになって、それでも堪えられなくて笑った。里見がびっくりするくらい。目に涙が滲むまで。

笑いながら、泣きながら、志野は決めた。

いつか、カメラを買おう。

それを持って、町に帰ろう。

そうしたらきっと思い出せる。町で暮らしていた自分のこと。あの頃の自分が、どんな感じだったのかってこと。そして写真を撮る。あの町のことだけではなくて、そこにいた自分がどんなだったのか、忘れないために。いつでも思い出せるように。

故郷のことも、この街のことも、これから行くいろんな場所も、写真に残しておこう。町も、世の中も、自分も、これから変わっていくだろう。今こうして大きな街に根拠のない期待を寄せている自分も、いつか消えてなくなる。でもそのとき、この自分がいたことを忘れたくない。昔の自分と今の自分が、そして未来の自分が、なめらかに繋がることはないかもしれないけれど、それでも、こんな自分がいたことを憶えていたい。

ひとしきり笑うと、額に汗が浮かんでいるのがわかった。

見上げれば、青い空の向こうから日差しが降り注いでいる。この街で過ごす初めての季節だった。この街では何もかもが初めてで、何もかもが新しかった。

もうすぐ夏が来るのだと、そう思った。

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